スイスの食料戦略

内陸国によくある悩み

スイスは御存知の通り、四方をヨーロッパ諸国が取り囲むように成り立っている永世中立国。
ドイツ、フランス、イタリアといった古くからの列強国家に加え、オーストリア、リヒテンシュタインとも国境を挟んでいます。
特に多くの方が知るのはアルプス山脈ですが、これはスイス本土の南側、イタリアとの国境一帯の山脈で多くのスイス国民はその北側に広がる台地に居住していることが多いのです。
もちろん自然豊かな環境ではありますが、スイスの主な産業は農業ではありません。
その収入を岩塩のみの採掘に頼っている鉱業の他、時計などの精密機械工業、そして世界的に利用される銀行業が盛んです。
鉱業や精密機械工業はともかく、各国の人々が利用する銀行は、経済的リスクから一歩ひいたところにいる永世中立国ならではの産業といえるでしょう。

さて、そんなスイスですが、先述の通り農業国ではないため食料自給率はヨーロッパ諸国でも低い方です。
フランスやドイツでは食料自給率が100%超えや60%を超えるのに対し、スイスは5割を切っています。
環境はあれど、41,290km²と日本の九州よりやや小さい程度の国土面積で放牧中心の農業であるため、スイスで消費される食糧の1/3は輸入に頼っていると言われています。
小麦などの生産は行っていますが、それでも内陸国では手に入りにくい食材もありますから、この点は同じような国土を持つ国であればよくある話です。

食料備蓄を強固なものにする動き

スイス政府は2001年に食料備蓄に関する政策について、約60年ぶりに見直しを行っています。
これは山岳地帯を中心とする国土であるため、食糧の生産が他国と比べて困難であることと、第2次世界大戦時に敵国に包囲(1815年、ウィーン会議によってスイスは永世中立国として承認されていますが、枢軸国だったナチス・ドイツ、イタリア、ナチス占領下のオーストリアに包囲されていた)された経験から、食糧危機に備えるよう連邦政府主導による食料備蓄政策の新方針が示されます。
当時のNES局長、クルト・シュトライフ氏は、食糧危機が発生するリスク要因として、災害、伝染病、ネットワークインフラの不全、他国からの経済制裁を挙げ、これらのリスクに対応した計画を見直すことを行いました。
その結果、まず国民一人あたりの1日に必要なカロリー量を再設定し、それにあった備蓄計画を行うことになります。
これは従来の必要食料備蓄6ヶ月分を4ヶ月に短縮する、というものでした。
幸い、スイスの食糧生産量は農地の縮小などがあるものの生産量の落ち込みはなく、酪農製品をはじめ良質かつ一定の生産量を誇る農業はスイス国内でも大きな問題にはなっていません。
このことから他国で非常事態が発生した際にも食糧を援助できる程度の対策が可能となっており、決してスイスがすぐに食料不足に陥るような状態ではなく、この政策は引続き継続性のあるものと考えることができます。

ワインの自由化による成功

各国が農産物の輸出入規制の撤廃を行う中、スイスもその外圧に押される側面がありましたが、ワインはその中でもスイスの中で成功事例のひとつとして挙げられるものです。
日本でもコメの自由化によるリスクが様々な場面で語られていますが、ワイン消費国のスイスでは同じような問題が起こったと考えられます。
これはすなわちスイス国内のワイン生産者が壊滅的な打撃を受ける、ということですが、結果として成功したのには理由がありました。
スイスは特に白ワインのドライさが好まれる傾向が強くあり、輸入物は重い味が多かったため、生産国側で差別化が図れた、ということと、生産者側でも大量生産を行うことに向いているぶどうの生産とは別に、小規模ながら従来の伝統的な生産方法を守った高級路線に分けることができたのが大きな理由とされています。
自由化からの商品差別化に成功することで、従来製品を守ることができたのは、我が国でも注目すべき成功事例だと考えることができます。

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